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「足趾(そくし)の機能と歩行の質:足指が使えないとどうなる?」

happiponpono

足趾(そくし)を意識したことはありますか?

私たちが無意識に行っている「歩行」という動作。その一歩一歩の中で、足の指、つまり**足趾(そくし)**がどれほど重要な役割を担っているか、考えたことはあるでしょうか。

足趾は、身体の最も末端に位置しながらも、歩行時の安定性、推進力、バランス維持に密接に関与しています。
しかしこの足趾の機能が低下すると、以下のような身体の不調やリスクが現れやすくなります。

  • 歩幅の縮小や歩行速度の低下
  • 踏ん張りや蹴り出しの力の減少
  • バランス能力の低下に伴う転倒リスクの増加
  • 膝、腰、股関節などへの過剰な負担

特に高齢者や長期間運動習慣がない方では、足趾が地面につかずに浮いた状態となる**「浮き指」**が生じやすく、それが全身の運動連鎖に影響を及ぼします。
また、スポーツやフィットネスに取り組む方においても、足趾の機能が不十分であるとパフォーマンスが低下し、障害のリスクが高まります。

本ブログでは、以下の点について理学療法士の視点から解説していきます。

  • 足趾の機能と役割
  • 足趾が使えないことによる身体への影響
  • 足趾機能を高めるための評価とトレーニング方法
  • 日常生活における注意点と予防策

「足の指」という小さな部位に注目することが、全身の健康や歩行機能の質を大きく変える鍵になる――
そんな視点で、ぜひ読み進めてみてください。

足趾の役割とは?姿勢と歩行における基礎的機能

足趾は“支える・進む・バランスを取る”三つの柱

足趾は、日常生活の中ではあまり意識されることのない部位ですが、ヒトの直立二足歩行を支えるうえで、非常に重要な働きを担っています。
その役割は大きく次の三つに分けられます。

① 支える:立位における支持基盤の一部を形成

足の指、特に母趾(親指)は、立位時に体重を前方で支える**“最前線の支持点”**として機能しています。
これにより、前後左右の揺れを細かく補正し、姿勢の安定を保つことができます。
足趾の筋力や感覚が低下すると、わずかな体重移動に対応できず、身体全体のふらつきや不安定さにつながります。

② 進む:歩行における“最後の一押し”

歩行時、かかとから接地して体重を前方へ移し、最終的に足指で地面を蹴って次の一歩へ進むという**「ローリング運動」が行われます。
この蹴り出しの動作において、特に重要なのが
母趾の伸展力と足底の筋群の協調**です。

足趾がうまく使えないと、蹴り出しが不十分になり、歩幅が狭く、歩行スピードが落ちるだけでなく、膝や股関節に余分な負荷がかかりやすくなります。

③ バランスを取る:身体の姿勢制御への貢献

不整地や段差などの変化のある環境では、足趾の圧感知機能が働き、姿勢を微調整しながら転倒を防いでいます。
このセンサーとしての役割が弱くなると、とっさの転倒回避や姿勢反応が鈍くなるという問題が生じます。

足趾機能の低下は、全身の不調の引き金に

足趾の機能が低下している状態で歩行を続けると、次のような二次的な問題が起こりやすくなります。

  • 足部・膝・股関節・腰部への負荷増加による関節痛
  • 歩行速度の低下と運動量の減少
  • 転倒・骨折のリスク増大
  • 姿勢の崩れや歩行時の左右差

このように、足趾の機能低下は単なる“足の問題”ではなく、“全身の動作の質”に波及する要因といえます。

足趾が使えないことで起こる身体への影響と臨床的な所見

足趾の機能が低下している状態では、立位・歩行・バランスの全てに影響が及びます。
ここでは臨床現場でもよく見られる典型的な影響や関連症状を、身体各部位別に整理して説明します。

1. 歩行障害:蹴り出しの不足と歩幅の減少

足趾がしっかりと地面に接地しない「浮き指」や、足底筋力の低下により、歩行時の蹴り出し動作が弱くなります。
その結果、以下のような変化が現れます。

  • 歩幅が狭くなる(ピッチ歩行)
  • 足が地面を“引きずる”ようになる(擦り足傾向)
  • 歩行速度が低下する
  • 歩くとすぐ疲れる、つまづきやすい

臨床的には、立脚後期(トウオフ)に母趾伸展が見られない歩行パターンが観察されることが多く、これは転倒リスクの一つの指標とされます。

2. 姿勢・体幹バランスの崩れ

足趾の機能不全は、身体の土台である**足部アライメント(骨配列)**の崩れを招きます。
とくに浮き指のある方では、以下のような代償姿勢が見られることが多いです。

  • 後方重心になりやすく、膝が伸展位でロックされる
  • 骨盤が後傾しやすく、腰椎の生理的前弯が消失する
  • 背中が丸くなり、頸部・肩に過緊張が現れる

こうした代償姿勢は、腰痛や肩こり、頸部の可動域制限などの二次的な機能障害の引き金にもなりえます。

3. 転倒と転倒恐怖感

加齢や病気で足趾機能が低下すると、反応的なバランス回復能力も同時に低下します。
足趾で地面を掴むことができないため、予期せぬ段差や滑りやすい床に対応しきれず、以下のような状態に陥ることがあります。

  • 転倒歴のある人に多い“すり足歩行”
  • 小刻みで不安定な歩行パターン
  • 転倒を恐れて活動量が減少し、廃用症候群の一因となる

4. 足部そのものの障害

足趾が使えない状態では、足部のアーチ構造(縦アーチ・横アーチ)にも乱れが生じやすくなります。
この影響としては以下が挙げられます。

  • 外反母趾、扁平足、ハンマートウ
  • 足底腱膜炎、種子骨障害
  • 足趾の関節拘縮や痛み

これらの所見は、「歩くと疲れる」「歩幅が狭い」といった自覚症状の背景に潜む、構造的・機能的な異常を示す大事なサインです。
見逃さず、早期からの対応が求められます。

足趾機能を改善するためのトレーニングと日常でできる工夫

足趾の機能は加齢や使わなさすぎによって衰えやすいものですが、適切なトレーニングや日常の意識づけによって改善が期待できます。ここでは、理学療法士として推奨できる具体的なエクササイズと、日常生活での簡単な工夫を解説します。


1. タオルギャザー

【目的】
足趾の屈曲筋(主に長趾屈筋、母趾屈筋)の強化
【方法】

  • 床にタオルを敷く
  • 椅子に座った状態で、足の指だけを使ってタオルをたぐり寄せる
  • 片足で1〜2分程度、左右交互に実施

→ 簡単でありながら、足趾の細かいコントロール能力と筋力の両方を鍛えることができます。


2. 足趾グーパー運動

【目的】
屈筋・伸筋の協調性を高め、筋疲労を防ぐ
【方法】

  • 足の指をしっかり握る(グー)
  • 次に指を大きく開く(パー)
  • この動作を1セット10回、1日2〜3セット目安に実施

→ 足の指が開きづらい人ほど効果が出やすく、浮き指の改善にも有効です。

3. カーフレイズ+足趾意識

【目的】
ふくらはぎ(下腿三頭筋)と足趾の連動性強化
【方法】

  • つま先立ち運動(カーフレイズ)をゆっくりと行う
  • このとき、母趾にしっかりと体重を乗せて押し出す意識を持つ
  • 壁や椅子に手を添えて行ってもOK

→ ただのつま先立ちではなく、“足趾を使って立つ”感覚を習得することがポイントです。

4. 日常での靴の見直し

足趾を使える靴選びも重要です。

  • つま先に余裕のある“ワイドトウ”設計
  • インソールのアーチサポートがしっかりしている
  • 柔らかすぎず適度に屈曲性があるアウトソール

逆に、硬すぎる革靴やヒールの高い靴、指先が窮屈な靴は避けましょう。


5. 裸足での歩行・足裏刺激

可能な範囲で、屋内では裸足で過ごす時間を設けるのも有効です。

  • 足底の感覚受容器を刺激
  • 足趾の自然な動きを促進
  • 足底のアーチ機能を活性化

→ 清潔かつ安全な環境で行うことが前提となりますが、足の本来の機能を引き出す効果があります。


これらのトレーニングや工夫を、無理のない範囲で“習慣化”することが、
足趾機能の改善と歩行の質の向上につながります。

まとめ|“足趾”を意識することが、歩行の質を変える

足趾の機能は、歩行の安定・推進・バランス保持において欠かせない基礎的な役割を担っています。
この機能が低下すると、歩幅が狭くなり、姿勢が崩れ、転倒や全身の痛みにもつながるリスクが高まります。

しかし、日々の簡単なトレーニングや靴選び、動作の意識だけで、足趾の機能は十分に回復・向上が可能です。

足の指という“見落とされがちなパーツ”にこそ、
快適に歩き続けるためのヒントが隠されています。

まずは今日から、足趾の動きに少しだけ注目してみてください。
それが、健やかな身体づくりの第一歩となります。

ABOUT ME
川口幸穂
川口幸穂
株式会社happipon
代表取締役社長
2019年医師免許取得
父が狭心症でカテーテル治療後に運動療法を続ける場がないことをきっかけに、医師監修の今までにない訪問パーソナルトレーニングを立ち上げました。 medical fitness PONOは全トレーナーが理学療法士による訪問パーソナルトレーニングサービスです。 体力に自身のない方や持病をお持ちの方々向けに医師監修で安全かつ効果的なトレーニングを提供します。 専門家が個別プランを作成し、健康な生活をサポートし、美しい体作りをお手伝いします。 PONOで楽しく健康な未来を手に入れるお手伝いができれば幸いです
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