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運動でストレスは減る?ホルモンは整う?

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はじめに:ストレスはゼロにできない。でも「戻り方」は鍛えられる

ストレスって、できれば無くしたいですよね。

でも現実は、仕事・家事・人間関係・将来の不安など、ストレスのタネは毎日どこかに落ちています。だから大事なのは、ストレスを消し去ることよりも「ストレスを受けた後に、ちゃんと戻ってこられる体と心」を作ること。

そこで登場するのが運動です。

運動は「痩せるための罰ゲーム」ではありません。
うまく使えば、運動はあなたの体の中にある“ストレス対処システム”を整えるための、かなり合理的な手段です。

この記事では、難しい専門用語は必要最低限にしつつ、

・ストレスとホルモンはそもそも何をしているのか
・運動でコルチゾール(ストレスホルモン)はどう変わるのか
・睡眠や気分が良くなるのは気のせいなのか
・続けられる運動習慣はどう作るのか

を、研究結果を根拠に丁寧にまとめます。


ストレスとは何か:実は「外からの刺激」ではなく「体の反応」

まずは定義をそろえます。

厚生労働省e-ヘルスネットでは、ストレスは「外部からの刺激などによって体の内部に生じる反応」とされ、原因となる外的刺激(ストレッサー)と、それに対する心身の反応(ストレス反応)を合わせてストレスと呼ぶこともある、と説明されています。

つまり、ストレスは“イヤな出来事そのもの”だけを指す言葉ではありません。
むしろ本体は「その出来事に対して、体の中で何が起きるか」です。

そしてこの“体の中で起きること”の中心にいるのが、ホルモンと自律神経です。


ストレスホルモンの代表:コルチゾールは悪者ではない

コルチゾールは「ストレスホルモン」と呼ばれますが、悪者ではありません。
コルチゾールは本来、体を守るためのホルモンです。たとえば、エネルギーを確保したり、炎症反応を調整したりといった役割が知られています(これは基礎生理として広く確立しています)。

ポイントは、コルチゾールは「出ること」が問題なのではなく、「出方が乱れること」が問題になりやすい、というところです。

コルチゾールには1日のリズムがあり、朝に高く、夜に向かって下がるのが典型です。
この朝から夜への下がり方を研究では「日内コルチゾールスロープ(diurnal cortisol slope)」として扱います。

そして、この日内スロープが“平坦(朝高くならず、夜下がりにくい)”になるほど、心身の健康アウトカムが悪い方向と関連することが、系統的レビュー・メタ解析で示されています。

コルチゾールに対してできるだけ雑にまとめるなら、こうです。
朝は「今日の体を起動するアクセル」、夜は「休むためにブレーキをかける準備」。
この切り替えがうまくいくほど、体はラクです。


運動でコルチゾールは下がる?結論:短期は上がることがある、長期では“整う方向”が期待できる

ここ、誤解が多いところです。

運動はストレス反応そのものなので、運動直後にコルチゾールが上がることは普通に起こり得ます。
なのに、なぜ運動がストレスに良いのか。

答えは「長期で見たとき、日内リズム(出方)が整う方向に関連がある」という点にあります。

身体活動とコルチゾール調節に関するメタ解析(Moyers & Hagger, 2023)では、身体活動が高いほど日内コルチゾールスロープが“より急峻(朝高く、夜低い)”である、つまりより良好なパターンと関連することが示されています(効果は小さいがゼロではない)。一方で、起床時コルチゾール反応(CAR)は身体活動レベルで差がはっきりしない、という結果も報告されています。

さらに「日内スロープが平坦だと健康に良くない方向」というメタ解析もあるので、運動と日内スロープの関係は、ストレス対策として理屈が通ります。

ここで大事な注意点もあります。
運動=コルチゾールがいつも下がる、という単純な話ではありません。研究でも効果は小さめで、個人差がある領域です。
だからこそ、続け方(強度や頻度の設定)が重要になります。


運動は睡眠の味方:睡眠が整うと、ホルモンも整いやすい

ストレスと睡眠は、絡まりがちです。
眠れない → 体が回復できない → 些細なことが重くなる → さらに眠れない。
このループに入ると、メンタルも体調もジワジワ削られます。

身体活動がコルチゾールと睡眠に与える影響を扱った系統的レビュー・メタ解析(De Nysら, 2022)では、運動介入がコルチゾール低下と睡眠の質改善に小さな有益効果を示した、と報告されています。

ただし、この研究は「対象が乳がんの参加者中心で、男性や高齢者が少ない」など一般化に注意が必要、とも明記しています。

つまり、運動は睡眠に良い可能性が高いけれど、誰にでも同じ強さで効くと言い切れるほど単純ではない。ここは誠実に押さえておきます。

それでも実務的には、運動は睡眠改善の“きっかけ”になりやすいです。理由はシンプルで、

・日中に体を動かすと、夜に眠る理由が体にできる
・座りっぱなしが減る
・気分が切り替わる

このあたりが積み重なって、睡眠が整いやすくなります。


気分が軽くなるのはなぜ?カギは「脳の栄養」と「体内の快感物質」

ここからが面白いところです。運動が気分に効く背景には、複数の生理メカニズムが候補として挙げられています。中でも研究がまとまっているのが、BDNFと内因性カンナビノイドです。

BDNF:脳の“育ち”を助ける因子

BDNF(脳由来神経栄養因子)は、神経可塑性(学習や適応のしやすさ)に関与する因子として知られます。

運動とBDNFに関するメタ解析(Szuhanyら, 2015)では、単回の運動でBDNFが上がる効果(中等度の効果量)が示され、また定期的運動は運動後のBDNF反応を強める可能性、さらに安静時BDNFも小さいながら上がる可能性が報告されています。

ここで誤解しないでほしいのは、BDNFは「運動したら必ず劇的に増えて人生が変わる」みたいな魔法ではないこと。
でも、運動が脳の回復力に関わる生理的環境づくりに寄与し得る、という点は十分に魅力があります。

内因性カンナビノイド:いわゆる“ランナーズハイ”の有力候補

もう一つが内因性カンナビノイド(eCB)です。
ちょっと怖い名前ですが、体内にもともとあるシステムで、気分や痛み、ストレス反応に関わると考えられています。

運動と内因性カンナビノイドをまとめた系統的レビュー・メタ解析(Desaiら, 2022)では、急性運動後にアナンダミド(AEA)が増えるサンプルが多いことが示され、特に中等度の有酸素運動条件で増加が多い、という整理がされています。

これが「運動すると、なんか気分がスッとする」感覚の一部を説明している可能性があります。
あなたのやる気が出ないのは根性不足ではなく、体内の“気分スイッチ”がまだ温まっていないだけかもしれません。


運動はメンタルにどれくらい効く?うつ症状の研究はかなり強い

メンタル領域で運動の効果がまとまっている代表が、うつ症状に対する研究です。

BMJの系統的レビュー・ネットワークメタ解析(Noetelら, 2024)では、運動がうつ病の治療として有効であり、ウォーキング/ジョギング、筋トレ、ヨガなどが他の運動より効果的である可能性、強度が高いほど効果が大きい可能性、受容性(続けやすさ)の観点ではヨガや筋トレが良好、といった点が報告されています。

一方で、この論文自身が「研究の質が一様に高いわけではなく、確信度に限界がある」ことも述べています。
ここは大事なので正直に書きます。運動は万能薬ではありません。ですが、根拠の蓄積としては非常に有望で、しかも副作用が比較的少ない選択肢です。


ホルモンだけじゃない:自律神経(アクセルとブレーキ)も運動で整いやすい

ストレス反応を語るとき、ホルモン(コルチゾール)と並んで重要なのが自律神経です。

ざっくり言うと、
・交感神経=アクセル(緊張、集中、戦闘モード)
・副交感神経=ブレーキ(回復、消化、睡眠モード)

そして、このバランスの指標として研究でよく使われるのが心拍変動(HRV)です。

健康成人における運動トレーニングとHRVの系統的レビュー・メタ解析(Amekranら, 2024)では、運動トレーニングがHRV指標(SDNN、RMSSD、HFなど)を改善し、迷走神経活動(副交感神経寄り)に関連する指標も向上し得ることが示されています。

ものすごく噛み砕くと、運動は「アクセルだけ強い体」から「ブレーキも効く体」に寄せていく可能性があります。
ストレス対策として、これはかなり価値があります。


どれくらい運動すればいい?結論:目標はある、でもスタートは小さくていい

ここからは、実践に落とします。

世界基準:WHOの推奨

WHOの身体活動ガイドライン(2020)では、成人は週150〜300分の中強度有酸素、または週75〜150分の高強度有酸素、あるいはその組み合わせを推奨し、加えて筋力強化運動の実施や、座りっぱなしの低減も推奨しています。

「150分」と聞くと重く感じますが、週5日なら1日30分です。
さらに、WHOは「少しでも身体活動をすることに価値がある」というメッセージも強調しています。

日本の推奨:身体活動・運動ガイド2023

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、高齢者に対して、歩行など3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上、具体的には1日40分以上(約6,000歩以上)を推奨し、筋力・バランス・柔軟性など多要素の運動を週3日以上、筋力トレーニングを週2〜3日、座りっぱなしを減らすことなどが示されています。

そして同じ資料の中で、「少しの身体活動でも、全くしないより死亡率が低下し、特に活動量が少ない人ほど少しの活動で効果が期待できる」という趣旨が述べられています。

これ、地味にすごい言葉です。
運動が苦手な人ほど、伸びしろが大きい。いきなり優等生にならなくていいんです。


ストレス対策としておすすめの運動処方:まずは“中等度”を軸にする

ストレスで消耗しているときに、いきなり高強度をやりすぎると「運動がストレス」になって続きません。

ストレス対策としての最初の正解は、中等度です。

中等度の目安(現場で使いやすい基準)
・会話はできるが、歌うのはしんどい(トークテスト)
・汗はうっすら、息は少し弾む
・運動後に「気持ちよかった」が残る

そしてここに、週2回の軽い筋トレを足す。
WHOも日本のガイドも、筋力トレーニングの重要性を明確にしています。


続く人がやっている「習慣化の小ワザ」3つ

最後に、ここがいちばん大事です。
ホルモンも自律神経も、結局は“継続”で動きます。単発で人生は変わりません(逆に言うと、続ければちゃんと変わります)。

1)ゼロか100かをやめる:最低ラインを決める

おすすめの最低ラインはこれです。
・外に出て3分歩く
・立ってその場で足踏み2分
・スクワット(椅子立ち座り)を5回

少なすぎて笑うかもしれません。でも、笑ってるあなたはもう勝ち始めています。
運動習慣の敵は「サボった罪悪感」であって、運動不足そのものより厄介です。

2)予定に入れる:いつやるかを先に決める

「時間ができたらやる」は、だいたい一生来ません。
おすすめは曜日固定です。


・火曜と金曜:筋トレ(15分)
・それ以外:10分ウォーク
・毎日:座りっぱなしを切る(1時間に1回立つ)

3)成功体験を体に覚えさせる:終わった後に気持ちいい強度でやめる

“追い込む”は、体力が乗ってきてからで十分です。
最初は「やってよかった」で終われる強度が正義。
内因性カンナビノイドやBDNFの話は、言い換えると「気持ちいいスイッチが入りやすい強度がある」ということでもあります。


よくある質問

Q:運動すると逆に疲れてイライラしませんか?

あります。だいたい、強度が高すぎるか、量が多すぎるか、睡眠が足りていないか、のどれかです。
最初は中等度で短く。運動は“足し算”ではなく、回復も含めた“帳尻合わせ”で考えると上手くいきます。

Q:有酸素と筋トレ、ストレス対策ならどっち?

どっちも使えます。
メンタル面ではウォーキング/ジョギング、筋トレ、ヨガなどが有効である可能性が示されており、続けやすさの観点も含めて「好みで選んでOK」というのが現実的です。

Q:目標は結局どれくらい?

目標はWHOの週150〜300分(中等度)などがあります。ただし、少しでもやる価値がある、というのも同じガイドラインの大事なメッセージです。
日本のガイドでも「少しでも身体活動を増やす」ことの価値が強調されています。


まとめ:運動はストレスを消すのではなく「戻れる体」を作る

・ストレスは外的刺激ではなく、体の中で起きる反応(定義)
・日内コルチゾールスロープが平坦だと健康アウトカムが悪い方向と関連
・身体活動が高いほど日内コルチゾールスロープが良好な方向と関連(効果は小さいがゼロではない)
・運動介入はコルチゾール低下と睡眠改善に小さな有益効果の可能性
・運動はBDNFを上げる(急性で中等度、継続で反応が強まる可能性)
・急性運動でアナンダミド(AEA)が増えるサンプルが多い
・運動トレーニングはHRV指標を改善し得る(自律神経の整いに関連)
・ガイドラインの目標はあるが、少しでも動くことに価値がある

今日の結論はシンプルです。
運動は「ストレスを消す消しゴム」ではなく、「回復に戻るショートカットキー」。
まずは10分、いや3分でもいいので、今日の自分をちょっとだけ動かしてあげてください。


参考文献・エビデンス(本文で言及した主要研究)

・Moyers SA, Hagger MS. Physical activity and cortisol regulation: A meta-analysis. Biological Psychology. 2023;179:108548. doi:10.1016/j.biopsycho.2023.108548
・Adam EK, et al. Diurnal cortisol slopes and mental and physical health outcomes: A systematic review and meta-analysis. Psychoneuroendocrinology. 2017;83:25-41. doi:10.1016/j.psyneuen.2017.05.018
・De Nys L, et al. The effects of physical activity on cortisol and sleep: A systematic review and meta-analysis. Psychoneuroendocrinology. 2022;143:105843. doi:10.1016/j.psyneuen.2022.105843
・Szuhany KL, Bugatti M, Otto MW. A meta-analytic review of the effects of exercise on brain-derived neurotrophic factor. Journal of Psychiatric Research. 2015;60:56-64. doi:10.1016/j.jpsychires.2014.10.003
・Desai S, et al. A systematic review and meta-analysis on the effects of exercise on the endocannabinoid system. Cannabis and Cannabinoid Research. 2022;7(4):388–408. doi:10.1089/can.2021.0113
・Noetel M, et al. Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024;384:e075847. doi:10.1136/bmj-2023-075847
・Bull FC, et al. World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Br J Sports Med. 2020.
・厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(推奨事項等)
・厚生労働省e-ヘルスネット. ストレス(定義)
・Amekran Y, et al. Effects of Exercise Training on Heart Rate Variability in Healthy Adults: A Systematic Review and Meta-analysis of RCTs.

ABOUT ME
川口幸穂
川口幸穂
株式会社happipon
代表取締役社長
2019年医師免許取得
父が狭心症でカテーテル治療後に運動療法を続ける場がないことをきっかけに、医師監修の今までにない訪問パーソナルトレーニングを立ち上げました。 medical fitness PONOは全トレーナーが理学療法士による訪問パーソナルトレーニングサービスです。 体力に自身のない方や持病をお持ちの方々向けに医師監修で安全かつ効果的なトレーニングを提供します。 専門家が個別プランを作成し、健康な生活をサポートし、美しい体作りをお手伝いします。 PONOで楽しく健康な未来を手に入れるお手伝いができれば幸いです
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