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肩の腱板断裂・損傷とは——腕が上がらない、夜に痛む肩の原因と、知っておきたい対処

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腕が肩より上に上がらない、夜になると肩が痛んで目が覚める、肩を動かすと力が入りにくい。こうした症状の背景には、肩の「腱板(けんばん)」という組織の傷みが隠れていることがあります。腱板の損傷や断裂は、けがだけでなく、加齢に伴う変化としても起こります。この記事では、腱板断裂・損傷がなぜ起こるのかをやさしく解説し、受診の目安と、日常での付き合い方を、理学療法士の視点で整理します。


はじめに

「上の棚に手を伸ばすと、肩に力が入らない」「洗濯物を干すのがつらくなった」「夜、寝返りで肩が痛んで目が覚める」——こうした肩の不調に悩む方は、40代以降で少なくありません。

肩の痛みというと「五十肩(肩関節周囲炎)」を思い浮かべる方が多いのですが、実はよく似た症状の裏に、腱板の傷みが隠れていることがあります。両者は対処の方針が異なる部分もあるため、区別が大切になります。

先に結論をお伝えします。腱板の損傷や断裂は、必ずしもすべてが手術を必要とするわけではありません。断裂の程度や症状、生活での困りごとによって、運動療法などの手術によらない方法(保存療法)で日常生活を送れる方も多くいます。一方で、けがをきっかけに急に力が入らなくなった場合など、早めの受診が望ましいケースもあります。まずは、自分の肩がどの状態に近いのかを知ることが、適切な一歩につながります。


なぜ起こるのか——腱板は「肩を支える四つの筋肉の腱」

腱板とは、肩甲骨から上腕の骨(上腕骨)へとつながる、四つの筋肉の腱がまとまった部分のことです。この腱板が、腕の骨の丸い先端(上腕骨頭)を肩甲骨側の受け皿に引き寄せ、肩を安定させながら、腕を上げたり回したりする動きを支えています。肩を「陰で支える縁の下の力持ち」といえる存在です。

腱板が傷む背景には、大きく二つの要素があります。

一つは、構造上の理由です。腱板は、上腕骨頭と、その上にある肩甲骨の出っ張り(肩峰:けんぽう)との間の、狭いすき間を通っています。腕を動かすたびに、腱板はこのすき間でこすれやすい位置関係にあります。

もう一つは、加齢による変化です。腱板は年齢とともに少しずつ弾力や強さが変化し、傷みやすくなっていくことが知られています。そのため、はっきりとしたけががなくても、日常の動作の積み重ねのなかで断裂が起こることがあります。実際、腱板断裂は必ずしも大きな事故によるものばかりではなく、加齢を背景に生じることも多いとされています。

もちろん、転倒して手をついた、重い物を持ち上げた、といったけががきっかけになることもあります(外傷性)。この場合は、それまで問題のなかった肩が急に上がらなくなる、力が入らなくなる、といった形で現れることがあります。

腱板の傷みには、一部が傷ついた状態(部分断裂)から、完全に切れた状態(完全断裂)まで幅があります。そして、断裂があっても痛みや不自由をあまり感じない方もいれば、強い痛みや動かしにくさに悩む方もいて、症状の出方はさまざまです。


まず確認したい、受診の目安となるサイン

肩の腱板の傷みは、状態によって対応が変わります。次のような場合は、自己判断で様子を見るより、整形外科など医療機関で一度確認することをおすすめします。

とくに、転倒や腕を強くひねったあとなどをきっかけに、急に腕が上がらなくなった、力が入らなくなった、という場合は、早めの相談が望まれます。外傷をきっかけとした断裂では、状態によって早めの対応が検討されることがあるためです。

そのほか、次のような場合も受診の目安になります。夜、肩の痛みで目が覚める状態が続く。腕を自分の力で上げられない、または上げても保てない。肩の力の入りにくさや、動かしたときの引っかかりが続く。数週間たっても症状が改善しない、あるいは悪化していく。しびれや、腕・手の広い範囲の感覚の異常をともなう。

これらは必ずしも重い状態を意味するわけではありませんが、五十肩など他の肩の不調との区別や、断裂の程度の確認のためにも、専門家に診てもらうと安心です。診断には、問診や診察に加えて、必要に応じて超音波(エコー)やMRIなどの検査が用いられます。


研究やガイドラインではどう整理されているか

肩腱板断裂については、日本整形外科学会が一般向けにも情報を提供しています。治療は、大きく分けて手術によらない保存療法と、手術療法があります。

保存療法では、痛みを抑える注射や薬に加えて、運動療法が中心的な役割を果たします。腱板がすべて切れてしまうことはむしろ少なく、残っている腱板の働きを引き出す訓練が役立つとされています。肩甲骨の動きを整え、肩まわりの筋肉のバランスを回復させていくことで、痛みや動かしにくさの改善が期待できると考えられています。

一方で、保存療法を一定期間続けても肩の痛みや動きの障害が改善しない場合や、生活への支障が大きい場合には、手術が検討されます。手術には関節鏡を使う方法などがあり、術後は一定期間の固定と、数か月にわたるリハビリテーションが必要とされています。

ここで押さえておきたいのは、一度完全に切れた腱板が自然に元通りにつながることは基本的に難しいとされる一方で、断裂があっても症状を抑えて日常生活を送れる方が多くいる、という点です。つまり、「断裂がある=すぐ手術」でも、「痛みが引いた=断裂が治った」でもありません。どの方法が適しているかは、断裂の大きさ、原因(加齢か外傷か)、年齢や活動量、生活での困りごとによって変わってきます。これは一般的な整理であり、実際の判断は、検査結果をふまえて主治医と相談して決めていくことになります。


誤解されやすいポイント

「肩が痛いのは、どうせ五十肩だから放っておけば治る」と考えてしまう方がいますが、これは注意が必要です。五十肩と腱板の傷みは症状が似ていることがありますが、対応の方針が異なる部分もあり、自己判断で放置すると、適切な時期の対応が遅れることがあります。

「腱板が切れているなら、動かさず安静にするのが一番」とも言い切れません。強い痛みがある急性期には安静が必要な場面もありますが、痛みが落ち着いたあとまで動かさずにいると、かえって肩が硬くなったり、筋力が落ちたりすることがあります。どの時期に、どこまで動かすかは、状態によって変わります。

「手術すれば元どおり」という期待も、慎重に考えたいところです。手術が有効な場合はありますが、術後には数か月単位のリハビリが必要で、回復の程度には個人差があります。

「痛みがなくなったから、もう大丈夫」とも限りません。症状が落ち着いても断裂そのものは残っていることが多く、無理な動作で悪化することもあります。気になる場合は、経過を診てもらうと安心です。


今日からできる、肩とのつき合い方

ここでご紹介するのは、強い痛みや前述の受診サインがない場合の、一般的なセルフケアです。診断がついていない段階での自己流の強い運動は避け、痛みが強いときや原因がはっきりしないときは、まず医療機関にご相談ください。いずれも、痛みが出ない範囲で、無理なく行うのが基本です。なお、効果の感じ方には個人差があります。

1. 肩の力を抜いて、やさしく振る

軽く前かがみになり、痛くない方の手で机などを支え、痛む側の腕を力を抜いて下げます。その腕を、振り子のように前後・左右へ小さくゆっくり揺らします。肩の力を抜いて動かすことで、こわばりをやわらげる助けになります。反動をつけたり大きく振り回したりせず、痛みの出ない小さな範囲で行ってください。

2. 肩甲骨をゆっくり動かす

両肩をすくめるように上げてストンと下ろす、肩を後ろへゆっくり回す、といった動きで、肩甲骨まわりを軽く動かします。腱板は肩甲骨の動きと連動しているため、ここをほぐすことが肩の負担軽減につながることがあります。各5〜10回ほどを目安に。

3. 痛みの出る動作・姿勢を見直す

腕を高く上げる、後ろに回す、重い物を片手で持つといった動作は、肩に負担がかかりやすくなります。高い場所の物は踏み台を使う、荷物は両手やリュックに分けるなど、日常の工夫で肩を守れます。

4. 夜の痛み対策を工夫する

夜間の痛みがつらいときは、痛む側を下にせず、抱き枕やクッションで腕を軽く支えると、楽になることがあります。ただし、夜間痛が続く場合は受診の目安でもあるため、我慢しすぎないようにしましょう。


まとめ

肩の腱板断裂・損傷について、押さえておきたい点を整理します。

腱板は、肩を支え、腕を上げ回すための四つの筋肉の腱で、加齢による変化やけがによって傷むことがあります。断裂には部分的なものから完全なものまで幅があり、症状の出方も人によってさまざまです。けがをきっかけに急に腕が上がらない・力が入らないときや、夜間痛が続くときは、早めに受診するのが安心です。治療は、運動療法を中心とした保存療法で日常生活を送れる方も多く、必要に応じて手術も検討されます。「切れている=すぐ手術」でも「痛みが引いた=治った」でもなく、状態に応じた判断が大切です。

肩の不調は、日常のちょっとした動作に響くぶん、気持ちも沈みがちです。ですが、多くは適切に付き合っていける症状です。まずは受診の目安を確かめ、必要なら専門家に診てもらいながら、無理のない範囲で肩をいたわっていきましょう。


参考文献

  • 日本整形外科学会「肩腱板断裂」症状・病気をしらべる(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/rotator_cuff_tear.html)
  • 日本整形外科学会「肩関節周囲炎(五十肩)」など肩関節疾患に関する一般向け情報
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット(運動器・ロコモティブシンドローム関連情報)

執筆者

Medical Fitness PONO
理学療法士・認定理学療法士/健康運動指導士

本記事は、理学療法士が一般の方向けにわかりやすく解説することを目的とした情報提供であり、個別の診断・治療を行うものではありません。理学療法士は医師ではなく、記事の内容は診断・治療の代わりにはなりません。肩の症状には、腱板の傷み以外の原因が隠れていることもあります。強い痛み、腕が上がらない、しびれや夜間痛が続くなどの症状がある場合は、自己判断せず、整形外科などの医療機関にご相談ください。効果の感じ方には個人差があります。

ABOUT ME
川口幸穂
川口幸穂
株式会社happipon
代表取締役社長
2019年医師免許取得
父が狭心症でカテーテル治療後に運動療法を続ける場がないことをきっかけに、医師監修の今までにない訪問パーソナルトレーニングを立ち上げました。 medical fitness PONOは全トレーナーが理学療法士による訪問パーソナルトレーニングサービスです。 体力に自身のない方や持病をお持ちの方々向けに医師監修で安全かつ効果的なトレーニングを提供します。 専門家が個別プランを作成し、健康な生活をサポートし、美しい体作りをお手伝いします。 PONOで楽しく健康な未来を手に入れるお手伝いができれば幸いです
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