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筋トレと糖尿病・インスリン

happiponpono

「血糖の波」をなだめる、いちばん現実的な作戦


血糖って、なんでこんなに気まぐれなんだ問題

朝イチの血糖、食後の血糖、薬や注射のタイミング。
がんばってるのに数字が思ったほど動かない日、ありますよね。

「ウォーキングはしてる。食事も気をつけてる。なのにHbA1cがあと少し…」
この“あと少し”を押してくれる候補として、最近よく出てくるのが 筋トレ(レジスタンストレーニング) です。

筋トレって、見た目のためだけじゃないんです。
からだの中で筋肉は、いわば “血糖の受け取りボックス”。ボックスが大きくて使いやすいほど、糖はスムーズに片づいていきます。
そして糖尿病の運動療法でも「有酸素+筋トレ」が推奨の柱として整理されています。NCBI

この記事では、むずかしい前置きは置いといて、まず 「結局なにをすればいいか」 が見える形でまとめます。


ざっくり結論:筋トレは“インスリンが働きやすい身体”をつくる

研究をまとめた解析では、2型糖尿病の人が筋トレを続けると HbA1cが平均で約0.39%下がった と報告されています。PubMed
しかもポイントは、筋力がちゃんと伸びた人ほどHbA1cが下がりやすい。つまり「やったつもり筋トレ」より「ちょっとずつ強くなる筋トレ」が血糖にも効きやすい、という話です。PubMed


“インスリン抵抗性”を、超カジュアルに説明すると

インスリンは「血液中の糖を、細胞(特に筋肉)へ入れるための合図」。
インスリン抵抗性がある状態は、ざっくり言うと、

  • 合図は出てるのに
  • 受け取り側(筋肉など)が 「今ちょっと忙しいんで…」 みたいに反応が鈍い

そんな感じです。

ここで筋トレの出番。
筋肉側の“受け取り力”が上がって、同じインスリンでも糖が入りやすくなる方向に寄せられます。運動が糖代謝に効く仕組みとして、筋収縮による糖取り込み(インスリン依存・非依存の両方)やGLUT4の働きなどが整理されています。NCBI


筋トレが血糖に効く理由:3つだけ覚えればOK

筋肉は「糖を吸い込める」臓器(運動中の即効ルート)

筋肉は動くと、インスリンがいつもより効きやすい状態になりやすく、糖を取り込みやすくなります。筋収縮でGLUT4が動いて糖を取り込む、という説明は運動と糖代謝の基本として整理されています。NCBI

“効き目”はその場限りじゃない(最大48時間くらい余韻が残る)

運動の影響は「やった瞬間だけ」ではなく、しばらく残ります。運動が糖の恒常性に影響しうる時間として 最大48時間 という整理もあります。NCBI
だからこそ、運動は「たまに気合い」より「間隔を空けすぎない」が強い。ガイドのまとめとしても 2日以上空けない ことが推奨に入っています。Frontiers

“受け取りボックス(筋肉)”自体が育つ

筋トレは筋力・筋量を底上げしやすいので、「糖をしまえる場所」を増やす方向に働きます。結果として、生活の中での血糖の揺れを“受け止めやすい身体”になっていきます(※ここは個人差あり)。


どれくらい変わる?HbA1cの話(ここは少しだけオフィシャル)

筋トレの効果をまとめたメタ解析(RCT 20本・計1172人)では、筋トレは対照群と比べて HbA1cを有意に低下(加重平均差 -0.39)。さらに「筋力の伸び(training effect)」が大きいほど、HbA1cの低下が大きい傾向が示されています。PubMed

また、筋トレの頻度・強度・回数など“やり方”と効果の関係を検討したメタ解析もあり、トレーニング変数が結果に影響する(=やり方が大事)ことが示されています。Frontiers


ウォーキングと筋トレ、どっち?答えは「両方、役割が違う」

有酸素(歩く・自転車など)は、血糖を下げる即効感が出やすい一方、筋トレは「筋肉の受け取り力」を育てやすい。
そして研究では、有酸素だけ/筋トレだけでも改善はあるけど、併用がいちばん改善が大きいという結果が出ています(DARE試験)。PubMed
さらに別の大規模試験(HART-D)でも、併用がHbA1c改善につながり、単独では同様の改善が得られなかったと報告されています。JAMA Network

ここでの現実的な最適解はこれです:

  • 「歩く」は毎日のベース(短くてもOK)
  • 「筋トレ」は週2〜3回、間を空けすぎない

この形が続けば、勝ち筋に乗りやすいです。NCBI+1


今日から始める筋トレ:おすすめは“全身ちょい強め”路線

糖尿病向けの特別メニューは基本いりません。
大事なのは 大きな筋肉を、安全に、続けられる形で 使うこと。

超初心者向け(10〜15分)

「ジムはまだ怖い」人向け。家でOK。

  • 椅子の立ち座り(ゆっくり)
  • 壁に手をついて腕立て(壁プッシュアップ)
  • ゴムバンドで引く(ローイング)
  • かかと上げ(ふくらはぎ)
  • お腹は“起き上がる”より“固める”(軽いプランクやドローイン)

ポイントは、息を止めない痛みが出る動きは変える

標準コース(週2〜3回 / 25〜40分)

ジムでも自宅でも。

  • 下半身(スクワット系 or レッグプレス)
  • お尻(ヒップヒンジ or ヒップリフト)
  • 背中(引く動き:マシンorチューブ)
  • 胸(押す動き)
  • 体幹(固定系)

筋トレは「フォームが安定したら、少しずつ負荷アップ」が基本。
さっきのメタ解析でも、筋力が伸びた人ほどHbA1cが下がりやすいので、“ちょい成長”を作っていくのがコツです。PubMed


忙しい人へ:筋トレが無理なら「座りっぱなし分断」だけでも価値あり

ここ、めちゃくちゃ現実的な裏技です。

「運動の時間が取れない」日は、まず 座りっぱなしを切る
ADAのポジションステートメントでも、長時間座位を中断して、食後の歩行や短い軽い運動を挟むことが、血糖・インスリンに良い影響を持ちうる形で紹介されています。PMC
ACSMのまとめでも、“小さな活動をちょこちょこ挟む”ことが血糖やインスリンに有益とされています。ACSM

たとえばこんな感じ:

  • 電話は立ってする
  • CMの間だけ立って足踏み
  • 食後にゆるく歩く
  • 1時間に1回、3分だけ動く

「筋トレゼロの日」を「ミニ運動の日」に変えるだけでも、習慣は前進します。


インスリン・血糖を下げる薬を使っている人の注意点(大事)

筋トレは味方ですが、低血糖には気をつけたい。

特に インスリン使用中、または一部の経口薬(例:SU薬など)使用中は、運動で低血糖リスクが上がることがあります。運動がインスリン作用を強め、糖の需要も増えるため、低血糖に傾きやすいという整理があります。NCBI

安全のコツはシンプルに:

  • 運動前後の血糖の傾向をチェック(最初は特に)
  • 低血糖っぽい症状(冷汗・手の震え・強い空腹・ぼーっとする等)を見逃さない
  • ブドウ糖や飴など“すぐ糖になるもの”を持つ
  • 薬の調整が必要そうなら、自己判断せず主治医に相談

ここは「慎重すぎる」くらいでちょうどいいです。


合併症や痛みがある人は「安全設計」で勝つ

糖尿病の人は、足・目・腎・神経など状態が人によって違います。
運動そのものは大切ですが、合併症がある場合はメニュー選びが超重要になります(足病変・バランス低下・視力など、運動の壁としても整理されています)。NCBI

不安がある場合は、医療職(主治医・理学療法士・運動指導者)と「どの動きが安全か」をすり合わせるのが最短ルートです。


続けるコツ:筋トレは“イベント”じゃなくて“歯みがき”

最後に、いちばん効く話をします。

筋トレの成功は、気合じゃなくて 設計 です。

  • 週2回だけ固定(火・金みたいに)
  • やる気がない日は「最初の1種目だけやる」
  • できた日はカレンダーに○(成果は○の数)
  • 3か月後のHbA1cで答え合わせ

運動の効果は「間隔を空けすぎない」ほうが出やすい整理があるので、完璧より“途切れない”を優先しましょう。Frontiers


まとめ:筋トレは、血糖管理の“地味に強いカード”

  • 筋トレは2型糖尿病のHbA1cを平均で約0.39%下げたという報告がある PubMed
  • 有酸素+筋トレの併用は、HbA1c改善で優位になりやすい(DARE、HART-D) PubMed+1
  • 続け方は「間隔を空けすぎない」「座りっぱなし分断」も効く Frontiers+2PMC+2

“筋肉を育てる”って、実は「血糖を育てない」ための現実的な作戦。
今日できる最小の一歩から、じわっと始めていきましょう。


参考(主要)

  • 筋トレとHbA1c:Jansson ら(2022, メタ解析)PubMed
  • 有酸素/筋トレ/併用:Sigal ら DARE(2007)PubMed
  • 併用の効果:Church ら HART-D(2010)JAMA Network
  • 運動推奨と背景:Endotext(The Role of Exercise in Diabetes)NCBI
  • 座位中断や運動の実務:ADA Position Statement(PMC)PMC+1
ABOUT ME
川口幸穂
川口幸穂
株式会社happipon
代表取締役社長
2019年医師免許取得
父が狭心症でカテーテル治療後に運動療法を続ける場がないことをきっかけに、医師監修の今までにない訪問パーソナルトレーニングを立ち上げました。 medical fitness PONOは全トレーナーが理学療法士による訪問パーソナルトレーニングサービスです。 体力に自身のない方や持病をお持ちの方々向けに医師監修で安全かつ効果的なトレーニングを提供します。 専門家が個別プランを作成し、健康な生活をサポートし、美しい体作りをお手伝いします。 PONOで楽しく健康な未来を手に入れるお手伝いができれば幸いです
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