膝が痛いと、運動が怖くなるのは自然なこと
はじめに
階段の下りでズキッと痛む。
立ち上がるときにミシッと違和感が走る。
「変形性膝関節症ですね」と言われた瞬間、多くの人がこう思います。
- 動いたら悪化するのでは?
- もう運動は控えた方がいいのでは?
しかし、現在の医学的な理解では、
変形性膝関節症(膝OA)は「使うと悪化する病気」ではありません。
正確には、
「使い方を誤ると悪化しやすいが、適切な運動は予防・症状改善・進行抑制に有効」
という位置づけです。
実際、国際的・国内的な診療ガイドラインでは、
運動療法は膝OAに対する非薬物療法の第一選択として明確に推奨されています。
変形性膝関節症とは、何が起きている状態なのか
膝OAは単なる「軟骨のすり減り」ではありません。
- 軟骨の変性
- 骨の変形(骨棘形成)
- 関節周囲の炎症
- 筋力低下
- 関節アライメント(O脚・X脚)の変化
これらが複合的に進行して、痛みや動作障害を引き起こします。
日本人を対象としたROAD研究では、
高齢女性で膝OAの有病率が特に高いことが示されており、
加齢・女性・肥満が主要なリスク因子として報告されています。
重要なのは、
画像所見(レントゲン)と痛みは必ずしも一致しないという点です。
つまり、
「変形がある=何もできない」ではなく、
現在の機能と生活に合わせて対策を立てる余地があるということです。
膝OA予防で最も影響が大きいのは「体重」
膝関節は、体重の影響を強く受ける関節です。
研究では、通常歩行時でも
膝関節には体重の約2〜3倍の力がかかるとされています。
さらに、体重変化と膝関節負荷を調べた研究では、
- 体重が1kg減ると、歩行時の膝関節負荷は約3〜4kg分軽減する
と報告されています。
つまり、
「少しの体重変化」でも、膝への負担は確実に減るということ。
膝OAの予防・進行抑制において、
体重管理は「遠回りに見えて、実は最短ルート」の一つです。
運動は膝を壊すのか?結論は「正しく行えば守る」
OARSI(国際変形性関節症学会)および
ACR(米国リウマチ学会)のガイドラインでは、
運動療法は、膝OA治療の中核である
と明確に記載されています。
ここでいう運動とは、
ハードなトレーニングや根性論ではありません。
**「評価された負荷で、継続できる運動」**です。
エビデンスが強い運動①:筋力トレーニング
膝OAに対する運動療法の中で、
最も一貫してエビデンスが強いのが筋力トレーニングです。
Cochraneレビューでは、
- 大腿四頭筋を中心とした筋力強化は、膝OAの痛みと身体機能を改善する
ことが示されています。
筋力が低下すると、
- 膝関節に直接かかる負荷が増える
- 関節が不安定になり、炎症が起こりやすくなる
逆に、筋力が保たれると、
- 筋肉が“クッション”として働く
- 関節の負担が分散される
特に重要なのは、
- 太もも前(大腿四頭筋)
- お尻(中殿筋・大殿筋)
この2つの筋群です。
エビデンスが強い運動②:有酸素運動
ウォーキングや自転車、水中運動などの有酸素運動は、
- 体重管理
- 炎症マーカーの低下
- 心肺機能の維持
を通じて、膝OAに間接的な利益をもたらします。
水中運動に関するCochraneレビューでは、
- 膝OA患者の痛みや生活の質(QOL)をわずかに改善する
と報告されています。
ポイントは、
**「速さ」「距離」「根性」ではなく、「続けられる強度」**です。
膝OAでは「やってはいけない運動」より「やってはいけない考え方」に注意
膝OAで問題になるのは、運動そのものではありません。
運動のやり方です。
避けたいのは、
- 痛みを我慢して続ける
- 反動を使ったスクワット
- 急な方向転換やジャンプ
- 疲労が溜まった状態での長時間運動
これらは、
関節への剪断力や炎症を増やす可能性があります。
「膝が痛い=安静」
「膝が痛い=運動禁止」
ではなく、
評価 → 調整 → 継続
この考え方が、膝OAと長く付き合ううえで最も重要です。
実践例:膝を守る基本運動(まずはここから)
- イスの立ち座り(大腿四頭筋)
- 膝伸ばし運動(座位でOK)
- 横向き脚上げ(中殿筋)
- 平地でのウォーキング、または自転車
- 太もも裏・ふくらはぎ・股関節周囲のストレッチ
頻度の目安は週2〜3回。
運動後に腫れ・熱感・痛みの増悪が続く場合は負荷過多のサインなので、回数や可動域を調整します。
Medical Fitness PONOの視点:膝だけを見ない
膝OAの運動療法は、
膝単体の筋トレだけでは不十分です。
- 股関節
- 足関節
- 立ち上がり動作
- 歩行パターン
これらを含めて評価・調整することで、
膝への負担は大きく変わります。
Medical Fitness PONOでは、
医師監修のもと、医学的知識を有した理学療法士が、
- なぜ膝に負担が集中しているのか
- どの動作・運動なら安全に行えるのか
を評価し、個別に運動を設計します。
まとめ:変形性膝関節症は「戦略」で差がつく
- 膝OAは、適切な運動で予防・進行抑制が可能
- 体重管理と筋力維持が、最重要ポイント
- 運動は「禁止」ではなく「調整」が正解
- 膝だけでなく、下肢全体と動作を見る
「年齢だから仕方ない」で終わらせず、
「膝を守りながら、できることを増やす」
それが、現在の科学が示す
変形性膝関節症との最も現実的な向き合い方です。
参考文献(国内外)
海外文献
Bannuru RR, et al. OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage. 2019.
Kolasinski SL, et al. 2019 ACR/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis. Arthritis Care & Research. 2020.
Fransen M, et al. Exercise for osteoarthritis of the knee. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015.
Bartels EM, et al. Aquatic exercise for the treatment of knee and hip osteoarthritis. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2016.
Messier SP, et al. Weight loss reduces knee-joint loads in overweight and obese older adults with knee osteoarthritis. Ann Intern Med. 2005.
国内文献
吉村典子ほか. 日本人における変形性膝関節症の疫学. 日本整形外科学会誌.
日本整形外科学会. 変形性膝関節症診療ガイドライン2023.
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