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「食べないダイエット」は、なぜ続かないのか?

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はじめに:痩せたいのに、なぜかうまくいかない

ダイエットを始めると、多くの人がまず「減らす」ことを考えます。朝を抜く、夜を抜く、炭水化物を極端に減らす。最初の数日は体重も動きやすいので、「これはいけるかも」と思うのですが、少しすると空腹が強くなり、気分も不安定になり、ある日どこかで反動が来る。そんな経験をした人は少なくないはずです。

ここでお伝えしたいのは、うまくいかない理由を「意志が弱いから」と片づけなくていい、ということです。体には、体重が減るとそれを元に戻そうとする仕組みがあります。つまり、ダイエットは気合いの勝負というより、体のしくみとの付き合い方の問題です。

まず大前提:体脂肪はエネルギー収支で決まる

体脂肪が減るために必要なのは、摂取エネルギーが消費エネルギーを下回ることです。これ自体はとてもシンプルです。糖質制限でも、脂質を控える方法でも、地中海食でも、体重が減っているなら、どこかでエネルギー収支はマイナスになっています。これは現在の肥満研究でも土台にある考え方です。

ただし、話はここで終わりません。人の体は、家計簿みたいに素直ではないからです。食事を減らして体重が落ち始めると、体のほうも「それなら支出を減らそう」と動きます。なかなかの倹約家です。

体は「省エネ」になる:代謝適応という考え方

減量が進むと、体重が減った分だけでなく、それ以上にエネルギー消費が下がることがあります。これが、いわゆる代謝適応です。さらに、減量にともなって食欲も強まりやすくなります。つまり、体は「このままだと危ないから、もう少し食べて、もう少し節約しよう」と反応するわけです。

だから、「食べないほど痩せやすくなる」というより、「食べないほど、その後が苦しくなりやすい」という見方のほうが、実際の生理には近いです。ここを知らずにダイエットをすると、体重が止まったときに「自分が悪い」と思いやすいのですが、実際には体の防御反応がかなり関わっています。

だからこそ「食べて痩せる」が必要になる

ここでいう「食べて痩せる」は、好きなものを好きなだけ食べる、という意味ではありません。そうではなく、代謝や筋肉を守りながら、無理のないマイナス収支を作ることです。

そのために大事なのは、ただ食事量を減らすことではなく、何をどのように食べるかを整えることです。言い換えると、ダイエットは「忍耐力のテスト」ではなく、「設計の見直し」です。ここが変わると、ダイエットはずいぶん現実的になります。

タンパク質は「筋肉の保険」

減量中に一番守りたいのは、体重そのものよりも筋肉です。筋肉は見た目だけでなく、安静時のエネルギー消費や身体機能の維持にも関わります。ここが大きく減ると、体重は落ちても「疲れやすい」「冷えやすい」「戻りやすい」方向に進みやすくなります。

高タンパク食を扱ったメタ解析では、エネルギー制限中に、標準的なタンパク摂取より高タンパクのほうが、体重や脂肪量の減少にやや有利で、除脂肪体重の維持にも有利な傾向が報告されています。さらに、強めの運動と減量を組み合わせた無作為化試験では、高タンパク群のほうが除脂肪体重の増加と脂肪減少が大きかったと報告されています。

実務的には、減量中のタンパク質は体重1kgあたり1.2〜1.6g/日あたりがよく使われる目安です。もちろん年齢や活動量、腎機能などで個別調整は必要ですが、「減量中だからこそ、タンパク質はむしろ大事」という方向性はかなり一貫しています。

空腹に勝つには、気合いより「食物繊維」と「エネルギー密度」

ダイエットでつまずく最大の理由は、結局のところ空腹です。空腹の前では理性が少し小さくなります。これは人として自然です。

食物繊維の多い食事についてまとめた大規模レビューでは、食物繊維摂取量が多いほど、体重、血圧、脂質などに有利な変化がみられることが示されています。食物繊維は、満腹感の維持や食後血糖の安定にも関わるため、ダイエット中の「食べたい」を和らげる助けになります。

また、エネルギー密度という考え方もとても大切です。これは「同じ重さの食べ物でも、カロリーは同じではない」ということです。低エネルギー密度の食事は、満足感を保ちながら摂取エネルギーを抑えやすいことが報告されています。水分の多い野菜、果物、きのこ、スープ、穀類を上手に使うと、「食べる量はあるのに、カロリーは抑えられる」という状態を作りやすくなります。

ここはダイエットの面白いところで、「減らす」だけではなく「入れ替える」ことで、かなりラクになります。

超加工食品は、過食を起こしやすいことがある

もう一つ見逃せないのが、食品の「加工度」です。Hallらの入院下での無作為化試験では、超加工食品中心の食事は、未加工食品中心の食事よりも自発的な摂取エネルギーが増え、体重増加につながりました。しかも、提示されたエネルギー量や主要栄養素などをできるだけそろえた条件でも、この差が出ています。

この研究だけで「超加工食品は絶対悪」とまでは言えませんが、「食べすぎやすい食品設計が存在する」という点はかなり示唆的です。言い方をやわらかくすると、「自分が弱い」のではなく、「食欲を押しやすいボタンがついた食べ物がある」ということです。そう考えると、少し気がラクになります。

飲み物のカロリーは、思っているより静かに効く

体重管理で意外と見落とされやすいのが、飲み物です。砂糖入り飲料についての系統的レビューとメタ解析では、砂糖入り飲料の摂取が体重増加を促すことを支持する結果が示されています。

食事は気をつけているのに、甘いカフェドリンク、スポーツ飲料、ジュース、アルコールなどが積み重なると、本人の感覚以上にエネルギー収支が崩れることがあります。とくに「飲んだものは食べた気がしない」のがやっかいです。ダイエットで最初に見直すなら、食事より飲み物から、というのは実はかなり理にかなっています。

記録は「監視」ではなく「理解」のために使う

食事記録というと、面倒、細かい、続かない、という印象があるかもしれません。たしかに一生続けるのは大変です。でも、短期間でも自分のパターンを知るにはかなり役立ちます。

自己モニタリングに関するシステマティックレビューでは、食事、運動、体重の記録は、行動療法における減量成功の中心的な要素と整理されています。

ここで大切なのは、記録を「自分を責める材料」にしないことです。目的は反省会ではなく、傾向の把握です。たとえば「夕方にお菓子が増える」「休日に飲み物のカロリーが増える」といった自分の癖がわかるだけでも、次の一手が打ちやすくなります。

目標は「大きく落とす」より「少し落として保つ」

ダイエットというと、大きな減量を目指したくなりますが、医学的には少しの減量でも意味があります。日本肥満学会の肥満症診療ガイドライン2022では、肥満症の減量目標として、まず現体重の3%以上、高度肥満症では5〜10%以上が示されています。

これは、「たったそれだけでいいのか」という意味ではなく、「それだけでも健康指標の改善が期待できる」という意味です。ダイエットを成功させるコツは、最初から大きく狙いすぎないことです。体は急カーブが苦手なので、少しずつ曲がっていくほうがうまくいきます。

まとめ:ダイエットは、我慢大会ではなく「体との相談」

ここまでをまとめると、ダイエットの本質はかなりはっきりしています。

体脂肪はエネルギー収支で減ります。けれど、減量が始まると体は省エネになり、食欲も高まりやすくなります。だからこそ、ただ食事を減らすだけではなく、筋肉を守るタンパク質、満腹感を助ける食物繊維、食べすぎやすい食品環境への対策が大切になります。

食べて痩せる、という言葉は少しやさしく聞こえるかもしれません。でも、実際にはこちらのほうがずっと理にかなっています。食べないダイエットは、短距離走では速いことがあっても、長距離では苦しくなりやすい。食べて痩せるは、派手ではないけれど、最後まで歩ききりやすい方法です。

ダイエットは、自分を追い込む作業ではありません。体の仕組みを知って、少しずつ味方につけていく作業です。そう思えるだけでも、たぶん前より少し始めやすくなるはずです。

参考文献

  1. Hall KD, Guo J. Obesity Energetics: Body Weight Regulation and the Effects of Diet Composition. Gastroenterology. 2017.
  2. Wycherley TP, et al. Effects of energy-restricted high-protein, low-fat compared with standard-protein, low-fat diets: a meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Clin Nutr. 2012.
  3. Longland TM, et al. Higher compared with lower dietary protein during an energy deficit combined with intense exercise promotes greater lean mass gain and fat mass loss: a randomized trial. Am J Clin Nutr. 2016.
  4. Reynolds A, et al. Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses. The Lancet. 2019.
  5. Ello-Martin JA, et al. The influence of food portion size and energy density on energy intake: implications for weight management. Am J Clin Nutr. 2005.
  6. Hall KD, et al. Ultra-Processed Diets Cause Excess Calorie Intake and Weight Gain. Cell Metabolism. 2019.
  7. Malik VS, et al. Sugar-sweetened beverages and weight gain in children and adults: a systematic review and meta-analysis. Am J Clin Nutr. 2013.
  8. Burke LE, et al. Self-monitoring in weight loss: a systematic review of the literature. J Am Diet Assoc. 2011.
  9. 日本肥満学会. 肥満症診療ガイドライン2022.
ABOUT ME
川口幸穂
川口幸穂
株式会社happipon
代表取締役社長
2019年医師免許取得
父が狭心症でカテーテル治療後に運動療法を続ける場がないことをきっかけに、医師監修の今までにない訪問パーソナルトレーニングを立ち上げました。 medical fitness PONOは全トレーナーが理学療法士による訪問パーソナルトレーニングサービスです。 体力に自身のない方や持病をお持ちの方々向けに医師監修で安全かつ効果的なトレーニングを提供します。 専門家が個別プランを作成し、健康な生活をサポートし、美しい体作りをお手伝いします。 PONOで楽しく健康な未来を手に入れるお手伝いができれば幸いです
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